はじめに
「日日是好日」この言葉、あまり耳慣れないものかもしれませんね。
私はこの言葉が大好きなのですが、もともとは禅語です。
禅語といっても、難しい言葉ばかりではなく、こういう風にシンプルなものもたくさんあるのですね。
字面だけを追っていくと「日々、良い日である」という雰囲気を感じますね。
禅語らしい、なんとも捉えどころのない言葉と思われるかもしれません。
ですが、この言葉は字面だけで追う意味だけではない深さが存在します。
このことを、一つのエッセイとしてまとめ上げたのが今回紹介する書籍です。
簡単なあらすじとまとめ
筆者が10代のとき、茶人である「武田のおばさん」と出会う。その雰囲気からは「タダモノじゃない」と言われる武田のおばさんは、まわりと付き合いこそすれども連なって行動するわけではなく、近所の小さな自宅でお茶を教えていた。
そんななかで、筆者はふとお茶を習い始める。武田のおばさんも、淡々と教え続ける。お茶を習う僅かな時間で繰り広げられる筆者と武田のおばさんの心のやりとりが、茶室をとりまく茶器や掛け軸、自然、生徒たちと交わりあい、筆者の激動の人生において一つの「解」が生まれる。
それが、「日日是好日」の真の意味であった。
……ごくごく簡単にまとめるとこういう風になります。もちろん、詳しいことは実際に読まれて筆者の心のうねりを丹念に読み進めていっていただければと思います。
文庫本として私は出会いましたが、重厚な書籍というよりかは、200あまりのページで、むしろ簡単に手に取ることのできるものです。表紙もシンプルでお茶の匂い立つ簡素ながら美しいものになっています。
ストーリーもシンプルで、読める方であれば1日もかかりません。
ですが、本書のなかで生まれる「なるほど」という心の内側から発する感情はそれぞれの章にたくさんちりばめられています。
茶道に対して興味がある方はもちろんですが、「お茶」に対してまったく興味がない人でも、いや、むしろそういう方が先入観なくこのエッセイを読み進めることができるのでお勧めです。
私は、この本を読んで、今までやってこなかったお茶に対する興味が沸き起こってきたのと同時に、作者の表現する簡素ながら五感に訴えかけてくる豊かな描写から繰り広げられる「日日是好日」の真の意味への接近に感動しました。
皆さんが日々生活している中で、目は入るが容易に看過してしまうようなものやことというのはたくさんあると思います。
当たり前のように今は夏で、秋が来て、釣瓶落としのように日が短くなり、少しずつ涼しくなって冬が到来する……そんな「いつもの」情景が、この本を読むことによって大変いとおしく、そして重厚な響きを持って目の前に広がってくることと思います。
毎日の生活が平坦で面白みに欠けると思っている方。あるいは、仕事も家のことも忙しく自分の時間の取れない無味乾燥さに嫌気のさしている方。そういう方はぜひ本書をとって読んでみてください。
決して宗教めいた難しさのない、禅語のシンプルで奥深い世界を堪能できることと思います。