はじめに
皆さんはiDeCoという言葉をどこかで耳にしたことがあるかもしれません。
堅苦しい「個人型確定拠出年金(individual defined contribution plan)」を可愛らしく言ったものです。
個人型、と言われる通り、この制度への加入は任意で、自分で掛金を拠出して、自分で運用方法を選択できるものです。
確定拠出年金には、
・企業型:企業が掛金を労働者の年金口座に積み立てる
・個人型:個人が掛金を自分の年金口座に積み立てる
簡単に言うとこういうことになります。
いずれも基礎年金、サラリーマンなどの第2号被保険者であれば厚生年金保険などのうえに存在する年金であり、一般的には「より豊かな老後の生活を送る」ための年金として始まったものです。
よく、周りの人たちの話を聞いていると「iDeCo入った方がいいよ」とか「iDeCoは最低限やっている」という言葉を耳にすることがあります。
皆さんも、検討されていたり、実際にやっている方もいらっしゃるかもしれません。
ただ、どの制度をとってみても、陽の当たるところと影ができるところがあります。
私はどちらも考慮したうえで、自分自身のライフスタイルに合わせたiDeCoをするようにしており、今回はそれをご紹介します。
iDeCoの陰と陽
物事は2つの側面を持っています。
【iDeCoの利点】
・節税効果が高い:積み立てた掛金が全額所得控除となる
・資産形成の一助となる:運用益が非課税になる
・年金を受け取るときも控除が受けられる
利点としてメインとなるのはこの3つの柱でしょう。
利点(1) 節税効果が高い:積み立てた掛金が全額所得控除となる
これは要するに、年間で拠出(積み立て)した掛金の総額を、課税所得から差し引くことができるため、所得税や住民税など、所得から計算される税金が軽くなるということです。
働いていると必ずと言っていいほど付きまとってくる税金、実はそのシステムが入り組めば入り組むほど我々は興味を失って勉強しなくなるので、それに反比例して徴収される税金は多くなる仕組みになっています。
勉強する時間がない、忙しいサラリーマンの方々でも、iDeCoは自動性が高いので、初めを頑張ってしまえば継続的に節税ができるという点で良いシステムと言えるでしょう。
私は節税という観点から、満額を拠出しています。現時点の税負担が軽くなることで、不用意な「支出」を減らすことができるからです。
利点(2) 資産形成の一助となる:運用益が非課税になる
iDeCoの拠出金は投資信託をはじめとした運用をすることができます。一般的には市場平均に投資をするという意味でインデックスファンドでの運用をされる方が多い(市場の成長が見込める限り利益が生み出されるという前提)です。
通常は、このような投資によって生じた利益にはざっと20%の税金(色々な事情があり20.315%)がかかります。
しかし、iDeCoによる運用ではその利益に対して税金がかかりません(非課税)。つまり20%の損失がなくなるという風に考えることができます。
一定額しか投資はできませんが、20%が持っていかれないのは大きいことです。
私はVT/VTIの趨勢を見ながら割合を適宜変更して投資をしています。
実際に時間が経つと、市場の波に乗じて少しずつ成長しているのを感じます。
iDeCoはコンスタントに拠出しますから、自動的にドル・コスト平均法(市場の好況・不況にかかわらず一定額を積み立てていく大きな損失の少ない投資方法)が実践できるというのも強みですね。
何も考えずに投資をしていくにはうってつけのシステムです。
利点(3) 年金を受け取るときも控除が受けられる
上記のようにして積み上げていった年金は、60歳になるまでは拘束されますが、それ以降は一括でも分割でも受け取ることができます。
一括で受け取る場合は退職所得控除という控除を受けて課税されます。
年金として分割で受け取る場合は公的年金等控除という形で、こちらも控除が受けられます(詳細な計算方法はこちらでは省略します)。
まとめると、iDeCoのシステムとしては、一定期間の資金拘束を許せば、成長する市場に合わせてコンスタントに一定額を投資し、その拠出額は現時点の所得から控除され、結果としての運用益は非課税となり、受け取るときにはさらに控除が受けられる、ということになります。
一方で、考えなければならない欠点も存在します。
ほとんどは利点の裏返しなのですが……。
【iDeCoの欠点】
・運用方法によっては損失が出る場合がある
・資金拘束が長期間にわたって存在する
メインはこの2つでしょう。
欠点(1) 運用方法によって損失が出る場合がある
運用益に非課税であるということは利点ですが、市場の状況によってはむしろ損失を出す場合もあります。
各種ファンドが様々な商品を展開していますから、選び方によっては上手く市場の波に乗れないこともあります。
一般的にはリスクを取りに行けば行くほど利益も出やすくなる半面、損失も被りやすくなります。
iDeCoはどちらかというと安定性が特長の運用方法ですから、あまりリスクを取りに行く戦略はお勧めされません。
ドル・コスト平均法は、超長期で見た場合は平均的に勝つ可能性が高いとされていますが、短期間で行った場合は変動幅が大きくなりますので、理想通りにいかない場合があります。
このことは早期に開始することである程度回避するという見方もあります。
私はVT or VTI一本でまったく問題ないと考えています。
欠点(2) 資金拘束が長期間にわたって存在する
しかしそうすると今度は早くから始めただけ60歳になるまでは一切そのお金に手を付けられないということにもなります。
株式投資では自分の売却したいタイミング(利益が出る瞬間)を自分で決めることができますが、iDeCoは拘束性が高いので、いかに利益が出ようと、反対にいかに損失が大きくなろうと、途中で資産を換金することはできません。
したがって、資金拘束により可動性のある資産が減少してしまうことに抵抗のある方は重大な欠点となってしまうでしょう。
衝撃を受けた一言
とある先生と会話していたときのことです。
iDeCoの話になったときに、
「iDeCoは税金を納めるのを60歳まで延期しているだけ」
という言葉を聞きました。
確かに、現時点での所得控除は拠出分だけ受けることができます。
しかし、それが60歳以降になって受け取る場合は、それ自身が所得として課税対象になってしまうのです。
一時金として受け取ろうが年金として受け取ろうが、控除は受けられるものの所得は所得なので、退職金やもともと貰えるはずだった年金と合算すると結局税金として持っていかれてしまうのです。
60歳になって実際に受け取ることを考える視点に立たないと、なかなかこういう発想はできません。
iDeCoを妄信してしまうと、結局は税制のシステムに絡めとられてしまうということにもなりかねない。そんな気づきのあった瞬間でした。
iDeCoを天引き貯金と考え、残された資産で運用効率を最大化する
それでもなお、私がiDeCoを活用できると思ったところは表記の通りの戦略です。
天引き貯金の考え方は、本多静六の書いた以下の書籍が模範的でわかりやすいです。
一般的に20代からiDeCoによる運用を開始して年利3%とすれば、元本から(職業や企業年金の有無によって掛金の上限額は決まってきますが)500万円以上成長することが見込めます。
運用益の節税額も100万円程度になり、馬鹿にすることはできません。
しかしそれは60歳まで引き出すことができません。
ここで、やはり現在の所得控除というメリットを活かす必要があります。
現在の税負担が軽くなれば、運用に回すことのできる資金が増大します(ちなみにこれはふるさと納税で得られる節税効果とほぼ同様です)。
それを長期間で運用することで、iDeCoによって生じた積立元金+運用益の受け取りにかかる所得税の損失分を上回ればいいのです。
iDeCoだけやっていると、その時点での所得控除は受けられますが、結果的に受け取るときに退職金や年金などと合算して所得税がかかります。
損失が出たりする場合は、最悪の場合「ただの貯金」となってしまう可能性が高い。
私は2つの方法でそうならないようにしています。
(1) 現在の税負担を軽くすることで投資に回す資金を最大化して資産そのものを大きくしてしまう
(2) 天引きされた後の金額が大きくなるように、労働を含めた生産性を向上させるモチベーションにする
(1)に関しては、先ほど説明したとおりです。
(2)は少し変な話ですが、例えば30万円の収入があったとして、3万円の拠出が毎月あった場合、1割は天引きされてしまうということになります。
その1割を取り戻すために、私は3万円分の生産性向上を狙います。
手元に残るお金が減ってしまうということへの最も良い抵抗は、減らさないように効率を高めることです。
本来ならば27万円になってしまいますが、3万円が天引きされても30万円になるように努力する。
これをモチベーションにすることによって、
・結果として得られる収入の上昇
・運用に回せる資金の増加
・拠出した分の節税による支出の減少
・生産性向上ための知識の蓄積
これらのプラスの要素が一気に得られることになります。
まとめると、(1)と(2)を併せることで、iDeCoを資産形成の一助にするだけではなく、天引きというマイナスの方向に働く力に抵抗する形で現在の生産性向上を狙うという作戦になります。
特に医師の場合は休日だろうが何だろうが労働環境は現時点であまるほど存在していますから、肉体と精神が健康である限り追加の労働は苦ではありません。労働と言っても休日では平日ほど忙しくなかったり、他施設で業務負担が少ないところも多いですから、異なる環境で勉強に集中するという方法もとることができます。
資産運用も学習も含め、現在の生産性を最大化すること。これが私の人生指針です。
そう考えると、iDeCoは、資産形成の目的でもあり、一方では手段にもなりえるわけですね。
おわりに
これから何十年も先の時代の話は、まさしく「神のみぞ知る」です。
もちろん、先行きを見据えて行動することは大事ですが、正確に読もうとしてしまうと大変です。
大局観を持ちながら、現在の資産運用を徹底して行えるようにしたいところです。
私が最も重要視するのは「現在」です。現在を充実させれば、そこから派生する未来は充実するはずですよね。
そのために、iDeCoの利点は利点として、欠点も利点に変えられるように画策して行動するようにしています。
iDeCoの結果として戻ってくる年金ばかりをあてにするのではなく、iDeCoのシステムに乗った結果として動くお金の流れに着目することで、今の資産を大きくするためのヒントを得ることができます。
一生懸命頑張ったあとの、ちょっとしたご褒美としてiDeCoの蓋を開けてみるくらいの感覚がちょうど良いのかもしれません。