怒りとタバコは害しか生まない
私が自信をもって言えるのは、「怒りとタバコは百害あって一理なし」に尽きます。
愛煙家の方々からしてみたら、とても嫌な思いをされることと思います。ですが、医師という立場上、ここまでタバコが悪いという根拠が揃ってしまうと、患者さんの健康を考えてアドバイスせざるをえません。もしも肺炎をおこして入院になった患者さんがいれば間違いなく禁煙をお勧めしますし、その他の患者さんでも「いま、タバコを一日一箱吸っています」などという患者さんがいらっしゃれば、「これを期にやめましょう」とお勧めします。
タバコは有害物質を体に入れる行為に他なりません。肺癌をはじめすべての悪性腫瘍のリスクを上昇させますし、肺気腫(COPDという言葉も最近では知れ渡るようになりましたね)、心疾患、脳卒中、ありとあらゆる疾患のもととなります。
ですので、もしもいま、ストレスを抱えてタバコを吸いたくなってしまう方がいらっしゃったら、すぐにでも禁煙できるよう行動しましょう。早く始めただけ、リスクは下がります。
怒りも精神の癌となる
一方で、タバコが身体に対する悪影響を及ぼすとするなら、精神に悪影響を及ぼすのは、他でもない「怒り」です。
怒りはタバコと同様、自らの精神を蝕むとともに他人への影響もはかり知れません。
あなたが今まで怒った瞬間のなかで、なにか問題が好転したことはあるでしょうか。あるいは、他人に怒りをぶつけたときに、その関係性がよくなったことはあるでしょうか。
怒りは二次感情と言われ、本能的・原始的な反応を契機として呼び起こされます。自分の意見に背くような行動をされた、自分に対して攻撃をしてきた相手に、怒りの感情を持つことで人間は防御する力を得てきました。
そして、怒りをぶちまけることで、一時的に「優越感」が生ずるのがやっかいなところなんですね。人からの攻撃に攻撃をし返した。相手より優位に立ったその刹那の感覚が中毒性物質のように効いてしまうのです。
ストレスホルモンであるコルチゾールや血圧を上げるカテコラミンなども、怒りの感情とともに上昇し、さらには脳内の扁桃体という部位が活性化することにより脳機能の低下を招いたりすることも知られています。
身体機能に悪影響を及ぼすばかりでなく、知らず知らずのうちに、そういう態度をとった人は周りから信頼される人がいなくなり、ついにはそれすらも気づかなくなってします。ふと見回したときには誰も心から頼りにできる人がいなくなってしまう。
怒りはタバコの煙と同じように、周囲の人を遠ざけ、自分を毒してしまうのですね。
ここまで来れば、怒りなんて持つまいと思われるでしょう。
しかし人間はそのときの状況で変わりうるものです。そこで、自分がいまとてもイライラしているなと考えているときに、さらに他人から何かを言われ腹が立ちそうになった場合に考えるヒントをご紹介しましょう。
怒りが湧いたら……「ありがとう」と念仏を唱える
これはとある書籍で知ったお話です。怒りが込み上げてきた場合に、敢えて心のなかで「ありがとう」と三回唱える。そうすると、一呼吸おくことになりますから、その間に沸騰した怒りが鎮まって来るという考え方です。
もちろん、唱える言葉は何でも構わないと思います。大事なことは「一呼吸おく」ことです。相手のペースに呑まれないようにする最もシンプルな方法ではないでしょうか。
自分の能力が足りなくてイライラして怒るなら克服する
私はよくこれを勉強や仕事に対するモチベーションの維持に利用しています。そう、怒りを「利用」してみる。例えば、仕事が追い付かないのに次から次へと仕事が降ってくる、それで思わずイライラして電話をとる声が剣呑な調子になってしまう。これではよい仕事ができないばかりか相手にも迷惑をかけてしまいますよね。
ですが、ここで発想の転換です。イライラしているのは自分の能力が単純に足りていないだけです。だったらこれを絶好のチャンスと思ってここぞとばかりに怒りが消失するくらいに勉強してみるといいでしょう。
「ちくしょう」と思いながらがむしゃらにやっているうちに、いつの間にか怒りの感情は消え去り、代わりに素敵な知恵や知識の結晶が手元に残ります。こんな素晴らしい「マイナスからプラス」への転換はありません。
逆に相手が怒ってくるならこちらのもの
こんどは相手が怒りの感情を持っている場合です。これもタバコの煙と同様で受動喫煙よろしく「あてられて」しまいます。そうならないように、日頃から自分が怒りの感情を持ったときに冷静に自分を客観視する癖をつけておくとよいと思います。
もし、相手がなにがしか自分に対して起こってきたり、不快な対応をしてきたときには「あ、もしかしたら今余裕がないのかもしれないな」という風に考える。
決してつられて怒りの感情を持つなんてことはしてはいけません。普段から自分の感情が乱れているときにしがちな行動を良く分析しておきましょう。そうすることで人の行動をしっかりと分析することができるはずです。
職場や学校では思いのほか余裕がない人たちが多いことに気が付きます。いつも何か知識をひけらかしている人、電話口で不機嫌そうに対応している人、他人の悪口を言っている人……。何も考えないで接していると、その毒気にあてられてしまうかもしれませんが、「余裕がないのなら、仕方がないな」と考えることにより、少なくとも自分の気まで乱されずに済みます。
怒りの感情を、冷静に分析して「攻撃」ではなく「防御」の手立てとして考えましょう。
そもそも怒りを抱く場所から去る
もし、それでも同じ場所にいることにより不快な感情や怒りの感情が絶えず湧き出てくるような状態にあるとするなら。それはもう喫煙している人から離れるのと同じようにその場からそっと離れましょう。
無理にそういう場所にとどまっている必要はありません。我慢強くその場にいたとしても、自分が怒りの感情を持ってしまっているのであれば、それ以上の成長は強く望めないからです。思い切って環境を変え、そこで自分の感情がコントロールできるのであれば悪いことはきっとないはずです。
毎日毎日「なんだかいつもイライラするな」と感じているのであれば、その環境が自分にとってどうしようもないくらい怒りを誘発する場所でないかを検討してみてください。そして、あらゆる方角から考えて、自分の能力の不足でもない、特定の相手が悪いわけでもない、怒りを鎮める方法を実践しても鎮まらないのであれば、環境を変えてみるのも一法だと思います。
おわりに
いかがでしたでしょうか。どのように考えてみても怒りは自分にも他人にもいい影響は与えないようです。そう納得していただけるのであれば、今からでもすぐに怒りの感情についてしっかり考えてみましょう。
そして、怒りに満ち溢れた環境から自由になり、「嬉しさ」や「楽しさ」に満たされた生活を目指してみてはいかがでしょうか。